ニュースの概要

米テキサス州オースティンの3Dプリント建設企業ICONが、シリーズDで2億ドルを調達したと発表した。共同主導はBaillie GiffordとBlackRockが運用するファンドなどである。これで累計調達額は7億ドル、企業価値は14億ドルに達した。調達資金は、複数階建ての住宅に対応するロボット建設システム「Titan」の製造と展開、新しい大規模研究開発施設の開設、次世代技術の開発に充てられる。3Dプリント建設の分野では、小さな試作や平屋の実証が長く続いてきた。そこへ長期運用型の大手投資家が加わったことは、資本市場がこの技術を「実験」から「産業」へ格上げし始めた合図とも読める。

引用元: ICON、3Dプリント住宅事業で2億ドルを調達し、企業価値14億ドルに(CNBC)

分析・見解

狙いは平屋の次、複数階建ての市場

ICONの調達資金で最も重いのは、複数階建てに対応するTitanの量産である。同社はこれまで、テキサス州の分譲地などで平屋を中心に実績を積んできた。だが住宅の需要が厚いのは、二階建て以上の戸建てや低層の集合住宅だ。平屋で技術の確かさを示し、次に市場の広い領域へ踏み出す。今回の資金は、その移行を支える燃料になる。

複数階建ては難しさも段違いである。上の階を支える壁には、強度と精度がより厳しく求められる。印刷した壁の上に床や梁をどう載せるか。現場で何度も測り直せば、速さという強みが消える。ロボットの性能だけでなく、設計の標準化が問われる局面だ。

家を建てる会社から機械を売る会社へ

注目したいのは「製造と展開」という言葉だ。ICONは自ら家を建てるだけでなく、ロボットを造って施工会社に使わせる道を太くしようとしているように見える。これは建築会社というより、建設機械メーカーに近い発想である。ショベルカーの会社が道路工事そのものを請け負わないのと同じで、機械が売れれば事業は現場ごとの人手不足に左右されにくくなる。一方で、機械の稼働率や保守の体制が収益を決める。売って終わりではなく、使い続けてもらう仕組みが要る。

工場化ブームの失敗との違い

住宅の工場生産には、苦い前例がある。米国のKaterra(カテラ)は2018年にソフトバンク系ファンドから巨額の出資を受けたが、2021年に経営破綻した。工場や人員を急いで増やし、固定費が先に膨らんだことが一因とされる。ICONの方式は、巨大工場で家を作るのではなく、機械を現場へ運んで壁を印刷する。この点で構造は異なる。ただし、ロボットの製造拠点を急拡大すれば、同じ固定費の罠に近づく。14億ドルという評価額は成長への期待を映した数字でもあり、期待に実績が追いつくかが試される。

壁を印刷できても、家は完成しない

壁の躯体が総工費に占める割合は、実は限られる。屋根、配管、配線、断熱、内装は今も人の手に頼る部分が大きい。壁だけが速くなっても、全体の工期や費用は頭打ちになる。だから研究開発施設の新設は重要だ。壁以外の工程をどこまで機械に寄せられるかが、次の勝負所になる。

ここで見逃せないのは、投資家が見ているのは完成棟数ではなく、一棟あたりの原価が下がる曲線だという点だ。長期運用の大手資金は、その線が右肩下がりになる証拠を待っている。

ビジネスへの影響

日本で使う前に確かめたい三つの壁

3Dプリント住宅は、日本では実証の段階が続く。国内ではセレンディクスのように小型の3Dプリンター住宅を販売する動きもあるが、普及はこれからだ。ICONの動きから、実務で確かめたい点は三つある。第一に、建築基準法上の位置づけである。壁を印刷した構造が、日本の耐震基準や構造計算の考え方で認められるかは、事例ごとの審査になりやすい。第二に、気候への適合だ。地震、湿気、断熱の要求水準が米国南部とは違う。第三に、材料の調達である。専用の材料を輸入に頼るなら、為替と供給の安定が原価を左右する。

全面採用より、観察と小さな試行が先

いま全面採用を決めるのは早い。だが傍観も得策ではない。現実的なのは、観察と小さな試行の二段構えである。まず、複数階建て向けのTitanが実際に何棟、どの価格で建つかを半年から一年追う。次に、物置、擁壁、平屋の離れなど、規制の影響が小さい用途で、国内の施工会社と小規模な試験をする。ここで得た工期と原価のデータは、将来の判断材料になる。災害後の仮設住宅や、人手が足りない地方の工事では、早く使える場面が出てくるかもしれない。

評価額より先に見たい三つの数字

投資や事業提携を考える立場なら、評価額より先に見るべき数字がある。機械一台あたりの年間施工棟数、一棟あたりの原価、手直しの発生率だ。この三つが公開されない間は、14億ドルという数字は期待の大きさを示すに過ぎない。ニュースを読むたびに、この三つが前回より良くなったかを確認する習慣をつけたい。

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