国内プレイヤー — セレンディクスと日本の挑戦者たち

日本の3Dプリント住宅産業は、住宅の常識を変えようとするスタートアップと、構造技術で堅実に前進するゼネコンという二つの潮流で動いています。本ページでは、セレンディクス、Lib Work、Polyuse、大手ゼネコン各社など国内プレイヤーの現在地と、産業を支える協業エコシステムを報告します。

日本の施工現場で球体型3Dプリント住宅を確認する技術者たち

国内市場の全体図 — 二層構造のプレイヤーマップ

日本の3Dプリント住宅・建設3Dプリンター市場は、大きく二つの層で構成されています。一つは、低コスト住宅の実現を掲げて住宅そのものを商品化するスタートアップ・住宅メーカーの層。もう一つは、構造部材や土木構造物への適用を通じて要素技術を蓄積するゼネコン・建材メーカーの層です。前者は消費者向けの話題性とスピードで、後者は認定取得や品質管理といった制度対応力で市場を切り拓いており、両者は競合というより役割分担に近い関係にあります。

国内主要プレイヤーマップ(2026年時点の概況)
企業分類主な取り組み
セレンディクススタートアップ球体型serendix10、50平方メートル級フジツボモデルの商用販売。24時間施工を目標に掲げる
Lib Work上場住宅メーカー土系材料の「Lib Earth House」シリーズ。脱セメントと量産化を志向
Polyuseスタートアップ国産建設3Dプリンター開発。公共土木工事の構造物や小規模建築物で実績
大林組大手ゼネコン実証棟「3dpod」で3Dプリンター建築の国土交通大臣認定を取得
清水建設大手ゼネコンプリンティング用材料「ラクツム」を開発し部材製造に適用
會澤高圧コンクリートコンクリートメーカー海外製大型プリンターを導入し防災シェルター等を製造

このほか、セメント・化学・繊維など異業種の材料系企業、CAD/BIMベンダー、地場工務店ネットワークが周辺を固めており、建設3Dプリンターを核とした産業クラスターが形成されつつあります。

地理的な分布にも特徴があります。セレンディクスは兵庫、Lib Workは熊本、會澤高圧コンクリートは北海道と、主要プレイヤーの多くが地方に本拠を置いています。これは偶然ではなく、人手不足と住宅価格の課題が都市部より先鋭化している地方こそ、3Dプリント住宅の必要性が高いことの反映と言えます。東京一極集中型ではなく、地方発のイノベーションとして立ち上がっている点は、この産業の社会的な意義を考えるうえでも興味深い特徴です。

セレンディクス — 「車を買う感覚で家を買う」を掲げる先駆者

国内の3Dプリント住宅を語るうえで欠かせないのが、兵庫県のスタートアップ、セレンディクスです。同社は「住宅ローンから人類を解放する」というビジョンを掲げ、車を買い替える感覚で購入できる低コスト住宅の実現を目指しています。2022年3月には球体型の10平方メートルモデル「serendix10」を約23時間で造形し、日本の3Dプリント建築の実用性を初めて広く世に示しました。

続く2023年には、一般的な居住を想定した約50平方メートルの平屋モデル「serendix50」、通称フジツボモデルを発表。寝室・水回りを備えた夫婦二人向けの間取りで、550万円という価格設定と、建築確認を取得したうえでの販売という点で大きな注目を集めました。発売時の限定販売枠には多数の応募が集まり、低コスト住宅への潜在需要を証明した形です。

セレンディクスの特徴は、自社で工場や施工部隊を抱え込まないファブレス型のオープンイノベーション体制にあります。全国の建設会社・工務店・材料メーカーなど200社を超える企業がパートナーとして参画し、プリンターの運用や施工を分担する構造です。2025年以降は、グランピング施設や店舗、防災用途など法人向けの受注が拡大しており、住宅とともに非住宅市場が同社の成長を支えています。

同社の歩みで注目すべきは、市場の反応の大きさです。フジツボモデルの初回販売枠には想定を大きく上回る応募が集まり、その後も見学会には全国から多くの見込み客・事業者が訪れています。実際の引き渡し先は、個人のセカンドハウスに加えて、グランピング事業者、企業の研修・保養施設、賃貸オーナーなど多彩であり、3Dプリント住宅の初期市場が「最初の自宅」ではなく「二つ目の建物」から立ち上がることを示す実例となっています。

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Lib WorkとPolyuse — 材料と土木からのアプローチ

Lib Work — 土に還る家をめざす上場住宅メーカー

熊本県の上場住宅メーカーLib Workは、2024年に土・石灰など自然由来材料を主体とした3Dプリント住宅「Lib Earth House modelA」を発表しました。一般的なモルタル系ではなく土系材料を選んだ点が最大の特徴で、セメント使用量を大幅に抑えることでCO2排出を削減し、解体後は土に還る循環型住宅を志向しています。同社は戸建て注文住宅で培った営業網を持つため、技術が成熟すれば既存の住宅販売チャネルに3Dプリント住宅を載せられる強みがあります。2025年以降もモデルの改良と耐震実証を重ね、量産化への布石を打っています。

Polyuse — 公共工事で実績を積む国産プリンター開発企業

Polyuse(ポリウス)は、国産の建設3Dプリンターを開発するスタートアップで、住宅よりもまず土木構造物に照準を合わせた点が特徴です。集水桝や擁壁といった小型構造物を公共工事で施工し、2021年には国内初となる建設3Dプリンターによる公共工事適用を実現しました。その後は建築確認を取得した小規模建築物の施工にも範囲を広げています。土木分野は形状が定型的で規格化しやすく、自治体の人手不足も深刻なため、3Dプリント技術の導入障壁が相対的に低い領域です。現場の建設会社と共同で施工実績を積み上げる同社のアプローチは、施工自動化の社会実装ルートとして注目されています。

この三社のほかにも、国内のプレイヤー層は着実に厚みを増しています。静岡の百年住宅がセレンディクスと連携して耐震性の高い3Dプリント住宅の共同開発を進めるなど、既存住宅メーカーとスタートアップの提携が生まれ、地場の建設会社・生コン会社がプリンターを導入して施工パートナーに加わる動きも各地で報告されています。大学・高専の研究室では材料や構造の基礎研究が進み、産学連携の実証プロジェクトも増えています。プレイヤーの多様化は、特定企業の成否に左右されない産業としての足腰の強さにつながります。

ゼネコン・材料メーカー — 構造技術と認定で先行する大手勢

大手ゼネコンは、住宅の低価格化ではなく構造技術と制度対応の面から3Dプリンティングを推進しています。大林組は、東京都清瀬市の技術研究所内に3Dプリンター実証棟「3dpod」を建設し、セメント系3Dプリンティング建築として国土交通大臣認定を取得しました。超高強度繊維補強コンクリートを構造体に用い、鉄筋を使わずに構造性能を確保するアプローチは、日本の規制環境における一つの到達点と言えます。

清水建設は、プリンティング専用のセメント系材料「ラクツム」を開発し、柱や梁の型枠、曲面部材などの製造に適用しています。現場一体造形よりも、工場・現場でのプリント部材活用という現実的な路線で技術を蓄積する戦略です。また、北海道の會澤高圧コンクリートは、海外製の大型プリンターをいち早く導入し、福島県浪江町の研究開発拠点で防災シェルターや小規模構造物の製造を進めるなど、地方のコンクリートメーカーによる新規事業の好例となっています。鹿島建設や竹中工務店なども材料・工法の研究開発を続けており、ゼネコン各社の技術蓄積は建設DX全体の底上げに寄与しています。

ゼネコン勢の適用先は建築にとどまりません。橋の高欄や埋設型枠、複雑な曲面を持つ意匠部材など、土木・インフラ分野での部材適用が着実に増えています。従来なら特注型枠に高額な費用がかかった一品生産の部材こそ、型枠レスの3Dプリンティングが最も効く領域だからです。維持更新の時代を迎えた日本のインフラ市場において、「型枠をつくらずに複雑な部材を製造する技術」としての建設3Dプリンターは、住宅とは別の確かな需要を獲得しつつあります。

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協業エコシステムの構造 — 一社完結から水平分業へ

国内プレイヤーの動きを俯瞰すると、3Dプリント住宅産業が水平分業型のエコシステムとして立ち上がりつつあることが分かります。プリンター(装置)、材料、設計データ、施工オペレーション、販売チャネルという各レイヤーで、それぞれ得意分野の異なる企業が組み合わさる構造です。セレンディクスのパートナー網はその典型で、装置は海外・国内メーカー、材料は化学・繊維系企業、施工は地場建設会社という組み合わせで一棟が完成します。

この構造は、既存の建設業界にとって参入機会が広いことを意味します。地場工務店にとっては、プリンター操作を習得すれば躯体工事の担い手不足を補いながら新商材を扱える可能性があり、材料メーカーにとっては専用モルタルという新市場が生まれます。一方で、装置と材料と施工管理の相性がノウハウ化しているため、単独レイヤーだけでの参入は差別化が難しく、どの陣営のエコシステムに参加するかという選択が事業判断の焦点になりつつあります。

エコシステムの拡大に伴い、人材育成も現実の課題になっています。建設3Dプリンターのオペレーターには、重機オペレーションとも左官技能とも異なる、データ処理と材料管理を横断するスキルが求められます。プリンター企業各社はパートナー向けの研修プログラムを整備し始めており、専門学校・工業高校と連携した教育の動きも出てきました。施工自動化の時代の「新しい職能」をどう育てるかは、装置や材料と同じくらい、産業の成長速度を左右する要素だと言えます。

国内プレイヤーの動向を追ううえでの実務的なチェックポイントを挙げておきます。第一に、各社の施工実績の「累計棟数・件数」の推移。実証発表と量産は別物であり、継続的な引き渡し実績こそが事業の成立を示します。第二に、認定・確認取得の範囲拡大。平屋から2階建てへ、小規模から一般住宅規模へと制度対応が進むかどうかが市場の天井を決めます。第三に、パートナー網の広がり。施工を担う地場企業の数は、そのまま全国供給力の指標になります。この三点を追跡すれば、国内市場の成熟度をかなり正確に把握できるはずです。

海外プレイヤーとの比較で見ると、日本勢は装置の造形速度や規模では米欧の先行企業に譲るものの、耐震規制下での構造技術、材料の品質管理、精緻な施工管理といった点で独自の強みを築いています。次ページの海外動向では、この日本勢の位置づけを世界の勢力図の中で確認します。