建築用3Dプリンター市場の拡大予測を、現場目線で読み解く
ニュースの概要
調査会社のFortune Business Insightsが、建築用3Dプリンター市場の規模と業界シェア、そして2026年から2034年までの予測をまとめた市場レポートを公開した。コンクリートに近い材料を、ロボットアームやガントリー(=門型の移動フレーム)で少しずつ積み上げ、壁や構造体をつくる技術が対象である。人手不足、工期の短縮要請、資材高騰といった課題を背景に、世界の建設業界で関心が高まっていることが数字に表れている。ただし、市場予測の多くは機械の販売額や出荷台数を軸にしており、実際の建物が建築確認を通り、人が住める状態まで届くかどうかは別の話である。本稿では、この予測をどう読むべきかを、施工と制度の両面から整理する。
引用元: 建築用3Dプリンター市場規模、業界シェア |予測、2026 ~ 2034 年(Fortune Business Insights)
分析・見解
市場予測の数字は機械の販売額が中心である
市場調査の予測は、年平均で二桁成長といった力強い数字が並びやすい。ここで注意したいのは、その多くが印刷機本体と専用材料の売上を積み上げたものだという点である。建物一棟の価値でみれば、3Dプリンターが担う壁の造形は全体のごく一部にすぎない。基礎、配管、断熱、屋根、内装、設備は従来どおり人の手が要る。
つまり市場が伸びても、建築費全体が同じ割合で下がるわけではない。数字は技術への期待を示す指標として読み、現場の削減効果は別に見積もる姿勢が欠かせない。
工期短縮の効果は壁の工程に集中している
米国やドイツ、アラブ首長国連邦では、壁体の造形を数日で終えた実例が相次いでいる。型枠をつくって壊す工程が要らなくなるため、躯体(=建物の骨組み部分)だけを比べれば、工期は大きく縮む。人手も数人で足りる。
ところが、造形後には配筋の確認、開口部の処理、仕上げ、設備工事が続く。ここに従来と同じ日数がかかれば、全体の短縮率は一部にとどまる。造形が速くなった分、後工程の段取りが遅れの原因として目立つようになる。現場の工程表を組み替えない限り、速さは活きない。
材料の性能と品質管理が普及の分かれ目になる
積層式の壁は、層と層の接着が弱点になり得る。硬化の速さ、気温や湿度による差、ノズルの詰まりといった不確定要素が品質に響く。鉄筋をどう入れるかも未解決の部分が多く、耐震性が求められる日本では特に重い課題である。
最近は、繊維で補強した材料や、現地の土を使う低炭素の材料も開発されている。セメントの製造は二酸化炭素の排出が大きいため、環境面での差別化も市場拡大の理由になる。性能を安定して証明できる事業者ほど、受注で優位に立つ。
日本では規制と災害対応が先に動く可能性がある
日本の建築基準法は、仕様をあらかじめ決めた材料や工法を前提にしてきた。3Dプリント壁は、個別に大臣認定や性能評価を受ける道が中心になる。時間と費用がかかるため、一般住宅より先に、小規模な付属建物、土木構造物、仮設住宅、災害後の復旧用途から広がる見通しである。
地震や豪雨のあとに、少人数で短期間に壁を立てられる点は、日本の事情に合う。市場予測が示す成長の中身は、国ごとに違う入口から始まると捉えると、読み違えにくい。
ビジネスへの影響
まず自社の工程のどこに効くかを切り分ける
導入を考える建設会社や工務店は、機械の価格より先に、自社の工事のどの工程が置き換わるのかを書き出したい。壁の造形が占める日数と費用の割合を実績から出し、その何割が減るのかを試算する。数字が小さければ、全面導入でなく外構、擁壁、塀、ベンチといった小さな構造物から試すのが現実的である。
外部の造形サービスや機械のリースを使えば、初期投資を抑えて効果を確かめられる。
規制の窓口とは設計の初期から相談する
建築確認や性能評価は、後から説明しても通りにくい。設計の初期段階で、確認検査機関や自治体の窓口に、材料の試験データと施工手順を持ち込む。補強方法と耐火性能の根拠を示せるかどうかが、承認までの期間を左右する。
あわせて、施工中の記録を残す仕組みも用意したい。造形速度、材料の配合、気温といったデータを保存しておけば、品質の説明に使える。
異業種にとっての商機も見逃さない
材料メーカー、ロボット制御の技術者、測量や設計ソフトの事業者にとっても、周辺の需要は大きい。造形後の仕上げや検査を担う会社は、まだ競争が少ない。市場が機械の売上で語られるうちは、後工程や保守に空白がある。そこに専門性を置く戦略は、機械そのものを競うより堅実である。