ニュースの概要

ポルトガルのセメント大手CIMPORが、3D建設と3Dプリントコンクリートを一つにまとめた国際ブランド「Havelar by CIMPOR」を立ち上げました。材料の開発、低炭素のセメントとコンクリート、デジタル施工、そして案件の大規模展開までを一体で扱う構えです。同社は3D建築を、目新しい工法の一つではなく、住宅不足、都市の防災力、災害からの復興、建設分野の脱炭素化に応える産業の土台として位置づけています。装置メーカーでも建設会社でもなく、素材を握る企業が前面に出た点が今回の特徴です。ブランド化によって、これまで個別の実証にとどまりがちだった3D建設を、継続的な事業として世界に広げる意図がうかがえます。

引用元: CIMPOR、新ブランドHavelarを立ち上げ、低炭素3D建設の国際展開を加速(World Cement)

分析・見解

装置ではなく材料メーカーが旗を振る意味

3Dプリント建設の話題は、これまで装置メーカーや施工会社が中心でした。ロボットアームの大きさや、一棟を何日で印刷できたかが競われてきたのです。今回は違います。CIMPORはセメントを作る側の企業です。

3Dプリントの現場で一番手を焼くのは、実は機械よりも材料です。ノズルから出たコンクリートは、押し出せるほどやわらかく、積んだ直後に崩れないほど早く固まる必要があります。この相反する性質を、気温や湿度の変化の中で保たなければなりません。材料を作る企業が施工まで関わるなら、配合と機械の調整を同じ社内で回せます。これは大きな強みです。

低炭素と3Dプリントは本当に相性がよいのか

セメント産業は世界の二酸化炭素排出量の約8%を占めるといわれます。3D建設は、必要な場所にだけ材料を置くため、型枠の廃材が出ず、壁の中を空洞にして材料を減らす設計もできます。ここに低炭素セメントを組み合わせれば、二重の削減が見込めます。

ただし注意点があります。3Dプリント用の配合は、一般にセメント量が多めです。強度と速い硬化を確保するためです。そのため、材料を減らす設計の利点が、配合の重さで打ち消される場合があります。低炭素セメントを使ったときに、固まる速さと強さを保てるのか。ここが本当の勝負どころです。ブランド名に低炭素を掲げた以上、CIMPORは実測の数字で示す責任を負います。

個別プロジェクトから産業の仕組みへ

これまでの3D住宅の事例は、米国テキサス州の住宅団地や、欧州の実証棟のように、一件ずつ話題になる形が多くありました。そこでは、設計、材料、機械、許認可がその都度ばらばらに用意されます。だから二件目、三件目で費用が下がりにくいのです。

Havelarのように窓口を一本化したブランドは、この問題への一つの答えです。材料の品質を管理し、施工の手順を標準化し、各国の基準への適合を使い回せるからです。携帯電話の基地局設備が、機器、設置、保守をまとめて売る形に近づいたのと似ています。部品の売り切りから、仕組みごとの提供へ。セメント産業が付加価値の高い領域へ踏み出す動きとして読めます。

残る壁は規制と職人の技能

大規模展開の最大の障害は、技術よりも制度です。3Dプリントの壁は、鉄筋の入れ方や継ぎ目の強度が従来の工法と異なり、各国で個別の審査が必要になります。EU域内でも建築基準は国ごとに違います。加えて、機械を扱う技能者や、印刷後の仕上げを担う職人の育成も要ります。ブランドを作っても、現場の担い手が足りなければ広がりません。CIMPORが本当に狙うのは、この制度と人材の両面を材料企業の力で整えることでしょう。

ビジネスへの影響

日本の建設・素材企業が今すぐ見直せる点

日本でも、セメント大手や生コン事業者が、自社の材料を3D施工に使える形へ磨く余地があります。最初の一手は、装置を買うことではありません。自社の配合が、印刷に必要な押し出しやすさと硬化の速さを満たすかを、小さな試験で確かめることです。その試験データは、将来の提携交渉で強い武器になります。

ゼネコンの側は、材料メーカーと組む発想が重要です。装置と材料を別々に調達すると、不具合の原因が切り分けにくく、手戻りが増えます。材料と施工の責任窓口を一本にできる相手を選ぶだけで、実証の失敗は大きく減ります。

災害復興と人手不足を入口に案件を作る

日本の3D建設は、まだ小屋や小さな住宅が中心です。普及のカギは、費用の安さではなく、人手不足と工期の短縮に絞った案件づくりにあります。たとえば、離島や山間部の資材運搬が難しい地域、被災地の仮設に近い住宅、擁壁や側溝などの土木構造物です。こうした用途は、構造審査が比較的軽く、短い工期の価値が高いため、実績を積みやすい分野です。

投資判断では、三つの数字を見てください。一棟あたりの材料の炭素排出量、現場の作業人数、そして審査にかかる月数です。この三つが従来工法より改善して初めて、事業として成り立ちます。海外の動きを待つより、小さな案件で自社の数字を持つほうが、判断は確実になります。

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